公開日:2026.07.27

最終更新日:2026.07.26

2人の人気料理家の思考をのぞいたら、仕事のヒントが見えてきた

  • マーケティング
  • コラム
WEBディレクター
山田安紀子

人の記憶には、特定の感覚と強く結びついているものがあるのではないでしょうか。

人によっては景色かもしれないし、音楽かもしれない。あるいは、ふと漂ってきた匂いかもしれない。

私の場合、自身の記憶の多くは「味覚」に紐づいています。

小学生の頃、旅先で食べたニジマスの塩焼きや、母が運動会で作ってくれた手羽中の唐揚げ。家族と初めて行った温泉旅館で味わった完熟柿のシャーベット、夫のおばあちゃんが振舞ってくれたがめ煮ーー。人生の節目を思い出そうとすると、その場で食べたものまでセットで蘇ってくるのです。

つまり私は、幼い頃から異様なほど「食」に興味がある人間なのだと思います。

食べることも好きだし、料理を作ることも好き。そんな私には、いわゆる「推し料理家」さんが何人かいます。例えば、長年尊敬しているのは土井善晴さん。著書『一汁一菜でよいという提案』には、忙しい毎日を送る中で何度も救われてきました。

そして最近特に注目しているのが、南インド料理店「エリックサウス」の総料理長であり、文筆家としても知られる稲田俊輔さんと、SNSで数々の人気レシピを生み出している長谷川あかりさん。

先日、そのお二人によるトークイベントに参加する機会がありまして。お二人の思想やレシピが好きな私としては、それはもう夢のような時間だったのですが、そこで意外な発見がありました。料理の話を聞きに行ったはずなのに、気づけば頭の中ではマーケティングの話に変換されていたのです。

そこで今回は、トークイベントで特に印象に残ったお話を紹介しながら、料理とマーケティングの共通点について考えてみたいと思います。

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目次

「省く手間」と「省かない手間」を見極める

トークイベントでまず印象的だったのは、お二人とも自他ともに認める「せっかち」だというお話でした。

余計な工程や材料がないか常に見直し、効率化できることは積極的に効率化する。一方で稲田さんは、にんにくや生姜を使う際にはチューブではなく、必ず自分でおろして使うそうです。

理由はシンプルでした。チューブでも十分に料理は作れますが、生のにんにくや生姜をその場ですりおろすと、香りの立ち方や風味のがまったく違うからです。おろし器の準備や片付けの手間はかかるものの、そのひと手間によって得られる味の向上が非常に大きいため、そこは効率化しないと決めているとのことでした。

このお話を聞いて、「手間=悪」という考え方は少し乱暴なのかもしれないな…と、改めて感じました。

料理において本当に重要なのは、手間を減らすことではありません。どの手間を省き、どの手間を残すのかを見極めることです。

これはきっと、仕事でも同じではないでしょうか。

AIや自動化ツールが進化し、さまざまなことを効率化できる時代になりました。しかし効率化そのものが目的になってしまうと、肝心のアウトプットの質が置き去りになることがあります。

企画立案でも、資料作成でも、文章執筆でも同じです。

省いていい工程と、絶対に省いてはいけない工程があります。

料理を作る人が味のための手間を惜しまないように、私も成果に直結する手間だけは惜しまない人でありたい。そんなことを改めて考えさせられました。

「バズ」の裏側には、戦略がある

長谷川あかりさんのレシピはSNSでたびたび話題になります。その中でも特に有名なのが、「酒蒸しハンバーグ」のレシピです。私も実際に何度か作ったことがありますが、家族から驚くほど好評でした。トークイベントでは、そのレシピ誕生の裏話が語られました。

実はあのレシピは、「レシピ本の表紙を飾るような看板レシピを作る」という明確なミッションからスタートしていたそうです。

誰に届けるのか。どんな価値を提供するのか。どんな印象を残したいのか。

そうした要素を何十枚もの企画資料を作るように整理し、方向性を磨き続けた結果として生まれたレシピだったといいます。

私はその話を聞いて、「バズるレシピ」という言葉の見方が変わりました。

私たちはつい、ヒットしたものを見ると偶然の産物だと思いがちです。しかし実際には、その裏側に緻密な設計があることも少なくありません。

マーケティングも同じです。成果が出た施策だけを見ると華やかに見えますが、その裏ではターゲット設定や仮説検証、訴求の磨き込みが繰り返されています。

偶然を待つのではなく、成功確率を高めるために考え抜く。その姿勢こそが、プロフェッショナルなのだと感じました。

ゴールは最初に決めておく

イベント参加者から、「献立は先に決める派ですか?作りながら考える派ですか?」という質問がありました。その質問に対するお二人の答えがとても印象的でした。

まず皿を決める。そして、その皿に何を盛るかをざっくり考える。その後で手を動かし始める。

つまり、完成形のイメージを先に持つということです。

私はこの考え方にとても共感しました。

仕事でも、完成形が見えている案件は迷いが少なくなります。

どんな記事を書くのか。どんなLPにするのか。どんな成果を目指すのか。

ゴールが曖昧なまま進めると、途中で何度も方向転換が発生します。

逆に完成図があると、今やるべきことと不要なことが自然と整理されていきます。

料理もマーケティングも、「まず皿を決める」という考え方が大切なのかもしれませんね。

上達したければ、まずは徹底的に真似る

もうひとつ印象的だったのが、「好きな料理家の思想を身につけたいなら、とにかく徹底的に真似するといい」というお話でした。

レシピを何度も再現する。調味料の選び方を真似する。考え方を真似する。それを繰り返していると、やがて料理家の思考回路が自分の中にインストールされて、「この場面なら、あの人はどう判断するだろう」と考えられるようになるのだとか。

これは仕事の学び方にも通じると思いました。

文章が上手な人の文章を読む。企画が上手な人の提案書を分析する。成果を出している人の思考プロセスをなぞる。

オリジナリティは、模倣の先に生まれるものなのかもしれません。料理も仕事も、最初から自分らしさを求める必要はないのだと感じました。

おわりに

トークイベントを通じて改めて感じたのは、料理が上手な人というのは、単に包丁さばきが上手な人ではないということです。

完成形を思い描き、そこにたどり着くために必要なものと不要なものを判断する。

限られた時間や材料の中で最適解を探し続ける。

その思考プロセスは、マーケターや企画職の仕事と驚くほど似ているように感じました。

料理とマーケティング。一見すると異なる世界に見えますが、どちらも「相手に価値を届ける営み」です。

だからこそ、推し料理家さん達のお話を聞きながら、私は仕事のヒントをたくさん持ち帰ることができたのだと思います。

今夜もお二方のレシピ本を読みながら、次はどの料理を作ってみようかな…と思いを馳せようと思います。きっと、この営みの繰り返しが、明日の仕事を少しだけ豊かにしてくれる気がしています。

WEBディレクター
山田安紀子
名古屋芸術大学デザイン学部を卒業後、株式会社ジオコスに入社。主に採用広報物の企画・ディレクション・編集に携わる。これまでに関わった企業はのべ数百社、インタビューした人は数千人。製造・商社・小売・IT・建設・サービス・不動産など、あらゆる業種の取材・ライティング経験を積んだのち、2020年10月15日から役員として株式会社YOAKEに参画。現在は主にコンテンツライティングや編集、ディレクションを担当。
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