公開日:2026.05.28

最終更新日:2026.05.28

誰に、何を、どう届けるか。「ラン活」で考えたブランド体験の話

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WEBディレクター
山田安紀子

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目次

ランドセル売り場で、マーケティングの本質に出会った話

はじめまして。YOAKEでディレクター/コンテンツライターとして働いている山田安紀子です。

前職からYOAKEにジョインし、マーケティングに関わる仕事に携わるようになって、はや数年。日々さまざまな案件に向き合う中で、ここ最近特に意識するようになったことがあります。 それは、「差別化」と「体験設計」の重要性です。

どれだけ良い商品やサービスであっても、似たような選択肢が並ぶ中で、なぜそれを選ぶのか。どんな情報に触れ、どんな感情が動き、どの瞬間に「これがいい」と思うのか。

そんなマーケティングの本質を、最近とても身近な場所で痛感する出来事がありました。

それが、「ラン活」です!

ラン活とは、小学校入学を控えた子どものためにランドセルを選ぶ活動のこと。最近では、年長さんになる前後からカタログを取り寄せたり、店舗や展示会に足を運んだりする家庭も多く、もはやひとつの「入学前イベント」のようになっています。

我が家には、現在6歳の双子の男の子がいます。彼らが年長の学年に上がったタイミングで、いよいよわが家もランドセル探しをスタートすることになりました。

カタログを見れば見るほど、各社の「勝ち筋」が見えてくる

まず取りかかったのは、カタログの取り寄せです。 とはいえ、ランドセルを作っている会社は本当にたくさんあります。手当たり次第に取り寄せていたら、我が家の郵便受けがちょっとしたランドセル資料館になってしまう。 そこで、事前にネット検索をして、候補を5社ほどに絞りました。

届いたカタログを見比べてみると、これがなかなか面白いのです。

あるブランドは、写真や誌面デザインにこだわりがあり、世界観づくりがとても上手い。いわゆる「ブランディングが強い」タイプです。 別のブランドは、色やパーツの組み合わせが豊富で、カスタマイズ性の高さを前面に出している。 また別のブランドは、軽さや背負いやすさ、収納力といった機能面をとてもわかりやすく説明している。

「なるほど、この会社はデザインで惹きつけるのか」 「ここは『自分だけのランドセル』感を売りにしているんだな」 「このブランドは、保護者の不安に対してすごく丁寧に答えているな」

そんなふうに、つい各社の訴求ポイントを読み解いてしまうのは、たぶん職業病ですね。

カタログを見ている時点では、私の中でなんとなく候補順位ができていました。デザイン、品質、ブランドの雰囲気、説明のわかりやすさ。保護者目線で見ると、「ここが良さそうだな」と思うブランドが自然と浮かび上がってきます。 そこで、最終的に4ブランドに絞り、実際に子どもたちを連れて店舗見学に行ってみることにしました。

…ところが。

カタログを見たときの候補順位と、実際に見学した後の子どもたちの反応が良かった順番が、まったく違ったのです。

仮に、見学したブランドをA・B・C・Dとします。 私の事前の候補順位がA、B、C、Dだったとすると、実際に子どもたちの反応が良かった順番は、D、C、A、B。 事前に描いていたランキングは、あっさり組み替わってしまったのです。

6歳児の心を動かしたのは、スペックではなく「参加できる体験」だった

では、それぞれの店舗でどんな体験があったのか。

まず、子どもたちの心を一気につかんだのが、ブランドDでした。

店舗スタッフの方が、子どもたちに向かってこう話しかけてくれたのです。 「ランドセルマスターになるための秘密、教えちゃうよ!」 もう、この時点で子どもたちの目の色が変わりました。

実際にランドセルを触らせながら、子どもが面白がりそうな言葉を交えて説明してくれる。単なる商品説明ではなく、「自分たちが冒険に参加している」ような見せ方だったのです。

さらに決定打となったのが、「貼って剥がせるワッペン」のオプション。 我が家の子ども達たちは炎をまとった剣と盾のイラストに目を輝かせ、「これかっこいい〜!!貼りたい!!!」と大歓喜。厨二病の芽生えを感じる瞬間でした。

保護者からすると、耐久性、素材、背負いやすさ、収納力など、気になるポイントはいろいろあります。でも6歳児にとっては、「かっこいい」「自分で選べる」「ワクワクする」が何より強い。 大人が思う「良い商品」と、子どもが思う「ほしい商品」は、まったく同じではないのだと実感しました。

次に反応が良かったのが、ブランドCです。 こちらは完全予約制で、その時間帯は我が家一組だけ。若い女性スタッフの方々が数名いて、双子それぞれに対して一人ずつ、ほぼマンツーマンで接客してくれました。 子どもたちが複数の色に興味を持っていることに気づくと、

「この中だと、好きな色はどの順番?」 「内側の模様はどれが好き?」 「こっちとこっちだったら、どっちがかっこいいと思う?」 と、子ども自身が感じていることをうまく言葉にできるよう、丁寧に質問を重ねてくれました。これは、親として見ていてもありがたい体験でした。

子どもは「なんとなく好き」はわかっていても、その理由を言語化するのはまだ難しい。そこをスタッフの方が自然に引き出してくれることで、子ども自身も「自分で選んでいる」という実感を持てたのだと思います。

「良いもの」が、そのまま「選ばれるもの」になるとは限らない

一方で、私がカタログ時点で有力候補だと思っていたブランドAは、保護者目線ではとても好印象でした。 比較的ベテランの女性スタッフの方が接客してくださり、押しつけがましさのない、上品で落ち着いた対応。工房系ブランドらしく、製品の品質や見た目の美しさにも説得力がありました。 正直、私個人としてはかなり惹かれました。 ただ、子どもたちはそこまでノリノリではなかったんですよね。

理由はシンプルで、素材の違いや縫製の美しさ、革の質感といったポイントは、6歳児にはなかなか伝わりにくいからです。店内にいる間も、「楽しい!」というよりは、「ふーん」という温度感。 これはブランドAが悪いという話ではありません。むしろ商品としては、とても魅力的でした。

ただ、今回の意思決定には「実際に使う子ども本人の気持ち」が大きく関わります。どれだけ保護者に刺さる品質訴求があっても、子どものテンションが上がらなければ、最終候補としては少し弱くなってしまう。

ブランドBも同様です。

こちらも完全予約制で、丁寧な接客による特別感があり、製品の上質さも感じられました。ただ、ランドセル自体のデザインや色が、子どもたちの好みとは少し違ったようです。 加えて、ブランドAと同じく、接客スタイルはやや「引き」の姿勢。保護者にとっては落ち着いて見られる良さがある一方で、子どもたちのテンションが大きく上がる瞬間はありませんでした。

ここで改めて感じたのは、同じ「ランドセル」という商品を扱っていても、各社の販売戦略は本当に違うということです。

品質で信頼を得るブランド。 世界観で惹きつけるブランド。 子どものワクワクをつくるブランド。 一対一の接客で納得感を育てるブランド。

ターゲットは同じ「来年小学校に入学する子どもとその保護者」であっても、何を重視し、誰に向けて、どのように届けるかは大きく異なります。 そして、それによって実際の印象や意思決定は大きく変わるのです。

6歳児の「これがいい!」に詰まっていたもの

今回のラン活を通じて、いくつかのことが見えてきました。

保護者が良いと思うものと、子どもが良いと思うものは違う。 カタログで良いと思ったポイントと、実際に体験して良いと思ったポイントも違う。 そして、「良い商品」であることと、「選ばれる商品」であることは、必ずしもイコールではない。

どんなに品質が高くても、その価値が相手に伝わらなければ選ばれにくい。逆に、機能やスペックだけでは語りきれない「楽しい」「自分ごと化できる」「選ぶ時間そのものが記憶に残る」といった体験が、意思決定を大きく動かすこともある。

これは、ランドセルに限った話ではないはずです。

YOAKEが日々手掛けるマーケティング戦略立案も、Webサイトの制作・運用も、クリエイティブ制作も、Web広告も同じです。

誰に届けるのか。 その人は何を知りたいのか。 どんな不安を持っているのか。 どの瞬間に気持ちが動くのか。 そして、どんな体験を通じて「これがいい」と思ってもらうのか。

マーケティングの本質は、机上のフレームワークだけではなく、日常の中にたくさん転がっているのだなと感じました。

6歳児の「これがいい!」に詰まっていたもの。 それは、商品そのものの魅力だけでなく、選ぶ時間の楽しさや、自分の気持ちを受け止めてもらえた体験まで含めた、ひとつのブランド体験だったのだと思います。

最終的にどのランドセルを選んだのかは、またそのうちご報告させてください。 誰も興味ないかもしれませんが、私の中ではなかなかの一大プロジェクトだったので…。

WEBディレクター
山田安紀子
名古屋芸術大学デザイン学部を卒業後、株式会社ジオコスに入社。主に採用広報物の企画・ディレクション・編集に携わる。これまでに関わった企業はのべ数百社、インタビューした人は数千人。製造・商社・小売・IT・建設・サービス・不動産など、あらゆる業種の取材・ライティング経験を積んだのち、2020年10月15日から役員として株式会社YOAKEに参画。現在は主にコンテンツライティングや編集、ディレクションを担当。
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